Macintoshに出会った頃

はじめてのMacintoshは1988年

前回の続き)森川眞行です。僕が初めてMacintoshを仕事で使い始めたのは、1988年。当時は大丸百貨店の通販カタログのクリエイティブディレクターとして仕事を頑張っていました。この頃は、めちゃくちゃ忙しくて大変な2年間だったけど、クリエイティブとして自分自身とても充実していた頃。

そしてMacintoshに出会うのも、この時期なのです。というのも当時通販カタログの一番の売れ筋は僕の担当していた「婦人服」だったのですが、僕たちが仕事に携わった頃から大きな課題がありました。

それはポジフィルムの色が変わってしまう…という現象。専門的なことはうまく説明できないのですが、カメラが撮影される原理は、光が反射してレンズに届いてポジフィルムに露光させるというものだと思うのですが、そのなかで洋服の生地に蛍光染料が使われていると、その部分だけがレンズに到達するスピードに変化が起きてしまい、特定の色が変わってしまうのです。

具体的によく問題になったのが、モスグリーンがベージュに転んでしまうという現象。カメラマンと何度も実験や検証をした結果、これはどうしようもない…ということになり、解決するには製版の段階でCMYKのどこかの網点を操作して、現物に色を合わせるという工程でした。そのため製版屋さんにD-50という自然光と同じ発色の蛍光灯を入れてもらい、実際に撮影で使用した衣服(現物)に色合わせをすることで回避していました。

色合わせをするための蛍光灯。一本数万円していた。

ところが、その色合わせが大変。なにしろ製版技術者の勘だけで色合わせをするわけですから、なかなかぴったりの色が出てこないのです。しかも網点を何度も触るうちに写真そのものも劣化してしまう現象も引き起こしてしまいます。

みなさんは、少々の色が変わることが、そんなに問題なのか? と思われるかも知れませんね。実はこれ大問題なのです。特に婦人服。カタログに掲載されていたスーツやワンピースがベージュだと思って購入し、実際に届いた商品がモスグリーンだったら、どうなりますか?おそらくすぐに返品ですね。それほど顧客はアパレル商品の色に敏感なのです。特に女性は。

そこで大丸側から「製版で色合わせをするのではなく、ポジの段階で色を調整できないか」という大きな大きな命題がクリエイティブディレクターの僕に降りかかってきたのです(大汗)。

そこで画像編集システムを調べた

そこで、僕が調べたのはポジフィルをスキャンした後に、画像編集システムを使って色変更を行い、再びポジに再出力するという工程でした。今思えば「そんなのポジをスキャンしてPhotoshop使えばいいじゃん」と思われるでしょうね。ところが、当時はパーソナルコンピュータでそうした工程を行うことはほぼ不可能で、そうしたソフトウエアも開発途上であったのです。

そこで調べたのが、画像編集用のワークステーション。製版の部長と一緒に調べたのが、大日本スクリーンのシグマグラフ、クォンテルのペイントボックス、サイテックス(イスラエル)のファーストシステム、イマプロシステム(カナダ)、島精機SGXが候補にあがり、京都の大日本スクリーンや、和歌山の島精機、新宿のイマプロ、サイテックスとペイントボックスは大手製版会社で見学させてもらいました。

大日本スクリーンのシグマグラフ
クォンテルのペイントボックス。こちらは映像の分野でのカレーコレクション(色合わせ)主に使用されていました。

ところが、どのシステムも専用のコンピュータ(ワークステーション)で、僕たちのようなデザイナーがオペレーションできるものではない。しかも多くのシステムがハイエンドであるために、最低でも1億円からの導入。仮にレンタルするとしても1時間3万円(オペレーター込み)という、目玉が飛び出る状況だったのです。

そこでMacintoshに出会う

結局、コンピュータ(ワークステーション)を導入してポジの色補正を行うための計画は頓挫してしまいました。デザイン制作会社に1億円のワークステーションなど、導入できるわけがありません。

ところが、この短期間に多くの画像編集ワークステーションを見て、僕自身の気持ちが大きく変わりました。これまで考えもつかなかった、画像の色補正がまるで手品のように変化していく様を見ていて「おれもやってみたい!」と思うようになったのです。

そして、何人かの専門家の方々が言うには「今はまだ、画像補正の世界はスタートしたばかりだ。アメリカでアップルという会社が作っているパーソナルコンピュータなら、安価に購入できるし、もうじき色補正ができるPhotoshopというソフトが、アメリカのアドーベという会社から出るはずだ」…と。

そこで僕は、アップルという会社が作っているパソコン。すなわちMacintoshについて調べたのです。すると画像補正だけでなく、版下のような(電算写植のような組版)やデザイン、レイアウトも可能である…と知り。そうしたパソコンですべての印刷までの工程を行なうことをDTP(デスク・トップ・パブリッシング)という概念で呼ぶということを知ったのです。

そこからMacintoshの雑誌や専門書を買いあさり、調査から半年後に会社にプロジェクトチームを作るための提案書を書きました。これからどんどんコンピュータがデザインの世界に入ってくる。そのための実験と検証とスキルを蓄積したいというのが骨子。結果、社長の了承を経て僕の机の上に、とうとう念願のMacintoshがやってきたのです。

その、はじめてのMacは「Macintosh II fx」という美しい機械でした。

つづく


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