アートディレクターとECサイト

昔、通販カタログのアートディレクターでした

むかし…と言っても30年近く前「アートディレクターの頃」でも書きましたが、僕は大丸百貨店の通販カタログのアートディレクターでした。

アートディレクターという職業は、デザイナーよりも上のポジションで仕事を回す役割で、いわゆる視覚面での全ての責任を追います。すなわち通販カタログでいえば、単なるレイアウトやタポイグラフィだけでなく、紙面の殆どを埋め尽くしている「写真」の仕上がりもすべてコントロールし、かつ仕上がった版下を印刷物にするために、製版や印刷にも立ち会って顧客(カスタマー)にカタログに掲載されている商品を購入してもらうためにベストを尽くします。

僕が担当していたカタログは、およそ90ページ(それを年四回発行する)で、見開き2ページあたり平均して10点の商品が掲載されています。つまり1,000点あまりの商品を売らなくてはならないのです。

しかも、ページに掲載される写真は、なにひとつ「写真」が存在しないものです。デザインをかじったことがあるひとなら、デザイン工程は写真を配置して周囲のコピーやスペックを整理すると考えがちでしょう。その写真もクライアントから提供されたり、ストックフォトを使うという手法が多いと思うのですが、我々は掲載するすべての写真をゼロから撮影しなくてはなりませんでした。

カタログを作る際に、僕たちクリエイティブチームとカメラマン、スタイリストは2日に分けて、大丸外商部のバイヤーさんから商品を引き取ります。それは婦人服や紳士服であったり、大きな家具や寝具や靴や鞄や貴金属や家電や日用品。ありとあらゆる商品を「ありポジ」で受け取るのではなく、商品を持ってこられて、それを1点ずつ取材します。そして全ての商品は撮影スタジオの倉庫に運ばれ、僕たちはまる1ヶ月かけて、すべての商品を撮影します。いま考えても気の遠くなるような作業です。

1000点の商品撮影ラフを描く

その1000点あまりの商品を、カメラマンのスタジオに搬入して「これ、撮っといて」と伝えて、写真が出来上がってくるほど甘くありません。カタログに掲載するには、紙面としてどれくらいのスペースを使っているのか、そして縦横の比率はどれくらいなのか。さらに撮影に際して照明はどうするのか、ロケなのかセットを組むのかホリゾントなのか、ファッションであればモデルはどうするのか、ヘアメイクはどうするのか…などを決めなくてはなりません。

それを決めるのが我々で、そういった写真の仕上がりを想定してカメラマンとスタイリストと1ヶ月の間ずっと立ち会っていることをアートディレクションと言います。

ですので、商品引き取りから1週間で僕たちは、カタログの仕上がりと同じものを手書きで書きます。いわゆる撮影ラフ。いいですか1000点の商品の撮影案を全部デザイナーが決めていくのです。カメラマンが勝手に撮影するのではないのです。

例えば、婦人服の背景はロケなのかセットなのか、ホリゾントなのか。家具の背景には床を作るのか、壁まで作るのか、あるいは押入れを大道具で作ってもらうのか。貴金属や宝石の背景は大理石なのか御影石なのか…。そのあたりも鉛筆で全部ラフを書くのです。1000点すべての商品を。

そして撮影の1ヶ月間は、その撮影ラフをカメラマンもバイヤーもスタイリストもヘアメイクもモデルも、それを片手に写真を撮影していく。そういう仕事でした。

撮影現場でのアートディレクター権限

このカタログで、僕の主戦場はファッション。つまり婦人服でした。相棒となるカメラマンと綿密に打ち合わせをして(時には酒を飲んだり)、モデルを決め、スタイリトとを決め、ヘアメイクと一緒に仕事をします。モデルは東京の雑誌(ミセスとか家庭画報とかヴァンサンカンとか)に出てるような1日18万円というギャラの一流モデル。

もちろんカメラマンもヘアメイクもスタイリストもファッションの業界のひとたちなので隙を見せると(笑)、意味のない「かっこいい写真」を撮ろうとします。しかし、僕たちが作っているのは「通販カタログ」で、カスタマーはお金を持っているおばさま達。尖っている流行通信やVOGUEやELLEのようなファッション雑誌を作っているのではないのです。

そのために「かっこいい」ことよりも「買ってもらえる」ためのアートディレクションが必要になってくるのです。

例えば、あるスーツでヘアメイクさんが、ファラ・フォーセットのような髪に美しいウェーブをかけ、スタイリストもそれに反応して、スカーフやアクセを付けたり、カメラマンも背景の照明を変えたりする。そこで仕上がってくるポラ(実際の撮影前に仕上がりと同条件で撮影するポラロイド)を自信満々に持ってくる。

そこで僕がやるべきことは、髪の毛でスーツの襟足が見えないのでひっつめにしてください。スカーフやアクセサリーは他のページで販売しているもの以外は使わないでください。照明を変えると生地のディティールが見えないので元に戻してください…。という、いわゆる現場がクリエイティブに萌えているとこを、頭から水をぶっかけるような発言なのです。

これは勇気がいります。僕は当時アートディレクターであり、さらに1年後はクリエイティブディレクターに昇格していましたので、僕の発言は絶対だったのです。しぶしぶ、モデルもカメラマンもスタイリストもヘアメイクも「(´・ω・`)ショボーン」としながら指示にしたがってもらいました。

つまり僕には絶対の自信があったのです。「かっこいい写真では売れない」という。それはこれまでにたくさんのファッション写真を「通販カタログのディレクター」として関わってきた経験値です。

例えばファッションセンスを「良し悪し」の基準に置くのであれば、僕には勝ち目がないでしょう。ところが「売れる売れない」という二択であれば、売れるための選択肢をたくさん知っています。

ホリゾントなのかロケなのか、色違いは全部見せるのか畳むのか、脇や背中やポケットはどうやって説明するか。もっといえば、モデルのどのポーズが一番売れるのか。1日18万円というギャラのモデルに対して、僕がポーズの指定までしてしまうのです。それがアートディレクターという監督の責任なのです。

通販カタログもECサイトも決めては写真

この通販カタログのアートディレクターは2年半くらいやっていました。そしてこの体験は自分の中で大きなノウハウとして蓄積されたと思っています。それはいま、ECサイトという「商品を売る」ビジネスに関わっている際に、写真が及ぼす影響をよく理解しています。

さらに顧客が何を信用して、何に惹かれるのかも一番大きいのは「写真」であり、それと相乗効果でコピーライティングが関与していると思います。

この経験を生かし、またECサイトであれば、ディレクションをやってみたいと思います。何か機会があればお声がけください。

フードストッカーや冷蔵庫の中身、鍋料理の湯気までディレクションの範囲なのです(笑)

つづく


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