ロックバーに方向転換した
(前回の続き)森川眞行です。5月にオープンしたシリコンカフェも、わずか4ヶ月でピンチを迎えます。要するに売り上げが伸びない。…という状況が続きます。知人・友人に力を借りてセミナーや、トークショーの企画も進めていましたが、それらはいずれも単発の企画で終わってしまいます。トークショーは別にシリコンカフェという場所でなくても、プレゼンターの魅力であるからです。
前にも書きましたが、僕たちはスタートから大きな戦略ミスをしていた。それは「地域のお客様にフォーカスしなかった」ということなのです。
そして9月になって僕たち夫婦は大きな決断をしました。それは「人件費が用意できない」ということです。お店を作るのに莫大な予算を投下し、ランニングのコストまでは考えていませんでした。考えていなかった…というのは嘘ですが、思った以上に赤字が増えすぎたのです。ダイニングバーという形態で食材にコストがかかっていたのも大きかったです。
そこで苦渋の決断として、スタートから一緒に手伝ってもらっていたスズキ君と、妻の息子を解雇することにしました。店舗でも会社でも経営した経験がある方には、わかっていただけると思いますが、こういうの苦しいですよね。しかし、それも僕たちの経営がブレていたということに尽きるのです。
そこで、基本に立ち返ってお店の方針を変えます。まずかかるコストに対して利益の薄い料理を全部やめました。これはシェフがいなくなったので止めざるおえなかったのですけね。そしてお店の方針は「食事をしてもらう」店ではなく、「お酒を楽しんでもらう」店に方向転換。さっそく大量のお酒を購入し、僕もカクテルが作れるように猛勉強。
ロックバーとしてやっていくと決めた
そして酒を楽しんでもらうバーとして、何を「売り」にするのか。とにかく僕と妻だけの経営なので、バーテンの修行なんてしていない「いんちきマスター」が麻布十番にたくさんあるオーセンティックバーに勝てるはずがない。
そこで考えたコンセプトは、お店を作る際に最初に考えたコンセプト。それは「ロックが流れる店」ということ。つまりは『ロックバー・シリコンカフェ』にシフトしていこうと決めました。
そういうことで、まずはロックバーとしての店構えにチェインジしていきます。それはお金をかけて内装を変えるなどという大変なことではなく、次の2つのことを行うだけで、すぐにロックバーになりました。
ひとつめは、照明の調光を下げる。あるいは消す。という極めてシンプルな手段(笑)
ダイニングバーだった頃は「料理が美味しく見えない」という理由で、明るい照明だったのですが、僕たちは「料理」を売るのではなく「酒とロック」を売ると決めたので、なんの迷いもありません。
そもそもオープン当初に、けっこう苦労して買い揃えたネオン系のディスプレイは、これまで明るい店内では「昼あんどん」みたいになっていて、フィギアを飾っていた棚の中の照明の存在すらわからなかった。照明を落とすというシンプルなことで、これまで見えていなかった個性が、コントラストくっきりに浮かびあがって来たのが嬉しかったです。
そして「爆音」こそが店の最大の魅力
照明の調光を下げるという手段と、もうひとつの手段も極めて簡単なことでした。それは「限りなく音楽の音量をあげる」ということです。
これもダイニングバーだった頃は、お客様が会話を楽しめないという理由で、普通の喫茶店よりも少し大きめの音程度。すなわちBGMだったのですが、ここでは、周囲に音漏れがしない程度の最大に音量をあげました。
あのね、BGMじゃないのです。バックグランドじゃない。音はこの店の最大の魅力。圧倒的な爆音でロックを浴びて欲しい…と、そう考えました。
「音がうるさい」と感じる人には合わないので、帰っていただくしかない。それでもよいと考えました。中途半端にいろんなお客様に来て欲しいと考えるのは逆に失敗します。ウェブサイトでいえばステークホルダーを絞り込めていないということ。
そして中途半端に大きな音は不思議と人間の耳には「うるさい」と感じますが、爆音が流れると、ひとはそれを受け入れるようになります。これは実際に僕が体感してわかったこと。
何の店なのかを明確にした
酒を仕入れて、照明を落とし、爆音にしたことで何が変わったのか? おそらく近隣の方々には何も伝わらないでしょう。
そこで路上に置く立て看板のデザインをやり直しました。それがこれ↓
ここに記載したのは店内で流しているミュージシャンの名前だけ。さらに「シリコンカフェ」という一見さんには「なんのこっちゃ?」と思う店名すら削除するという潔さ(笑)。ただ「ROCK BAR」とだけ書きました。
この看板を出すことで、僕たちが思っているようなお客様を呼び込めるのか、最後の賭け。一か八かでした。