店をオープンさせたものの
(前回の続き)2013年5月16日。2日間のプレオープンパーティを経て麻布十番の七面坂にシリコンカフェはオープンしました。
飲食店としては条件の悪いビルの二階。さらに二階に上がるエレベータがビルの一番奥にあります。店の工事をしている頃に妻の友人が、見学に来てくれて「けっこう苦戦するかも」と意見をくれました。看板はあるし、二階を見上げれば飲食店であることはわかるけど、エレベータが奥すぎて、この間の歩幅で引き返す可能性がある…というUX的な指摘。
オープン当初は、お祝いの花がビルの一階に飾ってあるので「飲食店がオープンしたのか」というタッチポイントは存在するのですが、そこからビルの奥までの数歩が生命線だったことは否めません。
最初から戦略を間違えていた
その予想は、悲しいことに的中し、プレオープンから3日満席だった店内は、オープン初日から閑古鳥のガラガラ。開店当初は近隣のお客さんのランチもやっていたのですが、こちらもガラガラで、ランチタイムでは1日平均3人程度のお客様でした。
例えばランチタイムを狙って、雑誌を置いたり、wi-fiや電源も無料です。みたいなアナウンスをしてみてもそれが集客に繋がらない。
なぜか…。それは戦略を間違えていたからです。つまり飲食店をオープンさせてもっとも重要なお客様は、昔からの知り合いやインターネットやデジタル業界の人々ではなかったということ。
3日間飲食無料でパーティをしましたが、その後、リピーターとして来店してくれた友人・知人は2割程度でした。それは、開店祝いであれば、まずは駆けつけることができても、やはり距離的なことなどを考えると、頻繁に来ていただけないのは当然のことです。
その時に正しい戦略は何だったかと言えば「近隣のファンを作る」ことだったのです。3日間無料でパーティを行ったコストを、近隣に金券的な招待券をばらまいたり、近隣の会社や店舗に無料券を持って挨拶に行くべきでした。
そしてコンセプトがゆらいでいた
もうひとつの間違いはコンセプトが中途半端だったことです。当初僕と妻は「ロックが流れるカフェ」というイメージを持っていました。そこにスズキ君が手伝ってくれることになり、飲食店経営ゼロの素人2人には、彼の経験値こそがお店の命綱だったことです。
そこで、彼の料理の腕も素晴らしいものだったので「ダイニングバー」を柱にしようと決めました。「カフェ」よりも「バー」ということで、食事とお酒がメイン。料理はどれも素晴らしく。お客さんの評判も上々でした。
だが、それでも昼間のランチは入らないし、そこそこ料理は美味しいものの、美味しい店が立ち並ぶ激戦区である麻布十番では、料理だけで勝負するには勝ち目が薄かったような気がします。
そして料理を中心に据えるということで、当初考えていたコンセプトにもゆらぎが生じてきます。まず照明が僕がイメージしているよりもはるかに明るい。明るすぎる。
一時照明を落とした時期もあったのですが、そうすることで「料理が美味しく見えない」という理由で却下。さらに店の音量も、僕は爆音でロックを流す店をイメージしていたのですが、これも料理と会話を楽しめないという理由で却下。
つまり「ロック」を中心に考えていた僕たちオーナー夫婦と「料理」で客を惹きつけると考えたシェフとの間に差異が生じてしまった。それがシリコンカフェ開店当初の失敗だったと思います。
そして、オープンからわずか4ヶ月でシリコンカフェは本格的なピンチを迎えることになるのです。