松本清張原作の1982年の日本映画
監督は、八つ墓村、砂の器などの野村芳太郎。主演は桃井かおりと岩下志麻。そして原作は松本清張。流石に原作が松本清張だけあって、しっかりした映画。しかし、何よりも主演女優のふたりがすごい。最後まで飽きずに見れる映画。
この物語は、映画以外に5回もテレビドラマ化されているので、内容は知っている人も多いと思う。前科4犯の鬼塚球磨子(おにずかくまこ)が、北陸の酒問屋の社長の後妻になり、旦那に3億円の保険をかけ、車ごと海に落ち球磨子だけが生き残り、社長は死亡。
「球磨子が夫を殺したのは間違いない」と警察や新聞社が疑いをかけ、その保険金殺人を弁護する女弁護士、岩下志麻の物語。
状況証拠では球磨子を有罪にはできず、彼女を有罪にしようとしている警察と新聞社の高圧的な態度がすごい。しかしながら、これは現在も同じことが社会で起きているような気がする。
とりわけ、一方的に球磨子を犯罪者扱いして報道する新聞記者(柄本明)が、見ていてムカムカするようなクズっぷり。「社会正義」の名の下に、好き勝手な報道をするのは、昔は気がつかなったけど、近年マスコミ(マスゴミ)のクズのような報道は、こうした冤罪をつくるような犯罪の取り上げ方だけではなく、政治スキャンダルの扱いも同じ。
そのことがわかると、見ていてますますムカついてきます。きっと1980年代当時の僕自身ならば、そのあたりの警察やメディアの「正義という名の暴力」に気がつかなったことでしょう。
球磨子の記者会見で、新聞記者に「あんたみたいなのをペン乞食って言うのよ」と言い放ち、「マスコミをなめるな!」という新聞記者。どっちが正義なのか、1980年代の僕なら気がつかなったかもしれないが、すでにこの時代に松本清張は警鐘を鳴らしていたのでしょう。
そういう意味で、スカッとするシーン。
1980年代の空気が十分に味わえる
あと、この1980年代という時代を懐かしむにはいい映画。今から40年も前のことで、当時の僕は、まだ20代。いろいろなことを思い出してしまうような映画でもあります。
そして、球磨子の弁護を引き受ける弁護士が誰もいなくなり、このまま裁判を開廷できないような状況になっていく。この東京からの弁護士・丹波哲郎もゴージャスなちょい役(笑)。
それでも自分でなんとかしようと、拘置所に六法全書を持ち込んで勉強する球磨子(食っているのが鰻弁当なのが笑えますが)。
物語のほとんどは法廷
そして、桃井かおりの裁判が始まる。本能のまま発言し悪態をつく球磨子は、しばしば法廷で暴れる。それを沈着冷静に弁護する女弁護士(岩下志麻)。裁判所セットの映像がずっと続くが見ていて飽きない。
証人として法廷に立つ、証言者たち。ここで原作者が言いたかったのは、被告が悪人であるという印象を新聞やメディアで受け取っている人々は、被告は殺人を目的に事故を起こしたという思い込みを、弁護士は細かく指摘していく。
そして、法廷のたびに衣装が変わる岩下志麻は、素敵だ。それに比べて、どんどんやつれていく桃井かおりのコントラスト。素晴らしいです。
被告と見聞する弁護士とのシーンも、同じ女でありながら、こんなにも違う価値観で生きている女性をうまく描いているし、それを演じているふたりの演技には、バチバチと芝居の火花が散っている。
途中で証人台に立つ、鹿賀丈史もいい味出している。それにまつわる物語をうまく回していく岩下志麻。まあ、あまりあらすじを書いても仕方ないので、とにかく映画を観ることをお勧めします。
ラストのクラブでのシーンは息を飲む
結果は、球磨子の無罪。悔しがる警察と新聞記者。だが、よく考えると無罪が立証されて「僕はまだ諦めませんよ」なんて言っている新聞記者こそが社会のクズなのだ。ばかやろう。
それに比べて、高級クラブで「お祝い」をする桃井かおりと岩下志麻。このラストシーンは、もうねヒリヒリ喉が乾く緊張感。いい演技です。しびれます。絶対に見てください。
そして、ラストで富山を離れる桃井かおり。これもいい芝居してます。
まあ、そんなわけで、今から40年も前の映画だけど、全然色あせていないです。てゆうか、かなりしびれます。Amazonプライム・ビデオでご覧になるには、下の画像をクリックしてください。おすすめです。