八月の狂詩曲

世界のクロサワの1991年作品

1991年、長崎を舞台に、原爆をテーマにした黒澤明監督の映画。

舞台は長崎の山村。夏休みを利用して、一人暮らしのおばあちゃんの家に遊びに来ている4人の孫を中心に描いている。

夏休みの田舎の家。僕にも経験がある。あの頃に流れていた空気感、テレビもなく自然だけの音、そういった世界がうまく描かれている。

吉岡秀隆をはじめとする4人の孫は、小学校、中学校、高校、大学という具合に設定されているようで、そうした幼い頃の行動パターンや考えがちゃんと描かれていて、どんどん映画に引き込まれていく。

あと食事のシーンが多いのもよかった。僕は映画の食事のシーンが大好きなので、孫と一緒にご飯を食べるお婆ちゃんがすごくよかった。

原爆で夫を亡くし、自らも被爆したおばあちゃんや、小学校の校庭に今も残っている、溶けたジャングルジムは、静かに…そしてはっきりと原爆への怒り…というか戦争への怒りを映し出していたと思う。

ハワイに移住したおばあちゃんの兄の息子を演じていたのは、リチャード・ギア。これが若い!(笑)。誠実で思いやりのあるアメリカ人を戦争という悲劇を間に挟んで、人間としての謝罪をちゃんと描いていると思う。

でも、wikiによると、以下のようなことが書かれていた。 誤解されることも少なくないが、クラーク(リチャード・ギア)が「すみませんでした」「私達悪かった」と鉦おばあちゃんに謝っている場面は、アメリカ人であるクラークが原爆投下を「すみませんでした」「悪かった」と謝罪しているわけではない。「私達」とは、「鉦の兄であるハワイに移民した錫次郎やクラークらの一家」のことであり、「すみませんでした」は「鉦おばあちゃんの夫が被爆死したことを知らなかった」ことに対してであり、「悪かった」のは鉦おばあちゃんが「長崎の人」なのに、夫の死因に思いが至らなかったことである

戦争を等身大で考えてみよう

なんだかなあ…。戦争そのものには、きっと悪いも正しいもない。もちろん裁判で裁かれて、日本は「悪いことをした」ということは明確な事実だけど、その途中で人と人が殺しあうことは、誰が考えても悲しい出来事だと思うわけです。普通に。

この戦争は日本が米国に仕掛けたことで、悪かったのは日本人かもしれないが、原爆という大量虐殺の道具を使った結果は、あまりにも悲しい出来事だと思うわけですよ。

原爆を使ったことで、戦争が終わった。だから正しい判断だった…というのは、僕にとっては受け入れることができないなあと思う。それに対して、ひとりの米国人として「すみませんでした」と言ってくれたことは、この映画での大きな意義だったと思うわけです。

「すみませんでした。でも仕方なかった」それでいい。おばあちゃんも言っている。「私はアメリカは好きでも嫌いでもない、ただ戦争は憎い」と。おばあちゃんはとっくにアメリカは許している。もちろん、クラーク(リチャード・ギア)だってそう。ぼくたちは今を生きているアメリカ人に対して、憎しみなんて持っていない。

誰かを許すということ

まあ、そんなことが言えるのは、僕が戦争を経験していなくて、家族や友達を殺されたことがないからかもしれないが…。それでも、僕はきっと許すと思うし、怒りの感情を忘れていくと思う。

同様に悪いことをしたら謝罪することが、自分自身を許していくことの出発点だと思う。自分にできることは、力になっていきたいと思うのが、人としての生き方ではないかと思った。

なんだか、あまり映画とは関係のないブログになってしまったが(笑)、この数年、自分でも色々な出来事があったので、それと重なってしまいました。勘弁してください。

きっと黒澤明は、原爆投下への怒りと、それに対しての謝罪、そういうものを求めていたんじゃなくて、悲しい出来事に触れたときに感じる人間の心のゆらぎを描きたかったんじゃないかと思う。

すばらしい映画だった。特にラストシーン。雨の中を、暴雨の中を、傘をもって、ぐんぐん歩いていくおばあちゃん。傘がオチョコになってもなお、どんどん進んでいく。そして、おばあちゃんを追いかける、孫と子供たち。ぬかるんだ田舎道で、泥に足を取られて転んでもなお、全力で、全力疾走でおばあちゃんを追いかける子供と孫。

いつもだったら「なんのこっちゃ」とか、「何が言いたいのだろう」と首をかしげてしまうラストシーンなのだけど、あまりのチカラ強さと映像の素晴らしさに感動した。


  • 監督/脚本:黒澤明
  • 原作:村田喜代子『鍋の中』
  • 製作:黒澤久雄
  • 出演者:村瀬幸子/吉岡秀隆/リチャード・ギア
  • 編集:黒澤明
  • 公開日:1991年5月25日
  • ウィキペディアで見る
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