No.1イン・ヘブン/スパークス(4/31)

ロンとラッセルのメイル兄弟

シド・バレットT.レックスピーター・ハミル…とここまでイギリスのミュージシャンばかりだったので、ここらでアメリカのアーティストであるスパークスを登場させます。

スパークスがアメリカのバンド…と思ってなかった人も多いでしょう。実は僕も大学卒業するくらいまでずっとスパークスはイギリスのアーティストだと思っていました。それは彼らのサウンドが「イギリス的」だったからです。

初めて聞いたスパークスのアルバムは「キモノ・マイ・ハウス」そして「恋の自己顕示」という放題の付いた「プロパガンダ」。この2枚のアルバムはロックの歴史上もっと評価されてよいと思います。とりわけ「プロパガンダ」は、クィーンの初期のセンス(オペラ座の夜あたり)に影響を与えているように個人的に思います。そして彼ら自身も、イギリスのグラムロックムーブメントで登場したロキシーミュージック(イーノが在籍していたころの)に影響を受けたんじゃないかな…と思ってみたり。

Wikiを読んでみると、自分たちがイギリスのロックミュージックの影響にあることを認めていますね。

2人はザ・フー、シド・バレット時代のピンク・フロイド、キンクス、ザ・ムーブといった当時のイギリスのバンドに傾倒していき、2人は自分たちを「Anglophilias(英国びいき)」と言っている

Wikiぺディア:スパークス_(バンド) より

確かに、音楽のセンスはもちろんのこと、ジャケットのアートワークや、彼らのパフォーマンスはイギリスっぽいと感じますよね。そうそう、初期の頃にはT.レックスやボウイをプロデュースしていたトニー・ヴィスコンティも、彼らのアルバムに参加したりしてます。

No.1イン・ヘブンはジョルジオ・モロダーのプロデュース

そして今回の「ロックアルバム31」で、選んだスパークスのアルバムは「No.1イン・ヘブン」。見出しにもありますが、このアルバムはジョルジオ・モロダーのプロデュース。僕がリアルタイムの1989年頃に輸入盤で購入しました。

その頃は、すでに音楽業界にはパンクロックもニューウェーブも登場していました。言っておきますが、その当時パンクやニューウェーブを支持している音楽ファン、ロックファンは極めて少ない少数派でした。いまでこそ、したり顔で当時のことを語るオッサンが多いですが「おまえら当時は聴いてへんかったやろ」と言ってやりたい(笑)。

そして、このアルバムがなんで素晴らしいかと言うと、ジョルジオ・モロダーのプロデュースであることから、全編に渡ってテクノポップというかシンセポップなのです。

ここでテクノポップ、というかシンセポップのおさらいを時系列で見てみましょう。

  • 1974年:クラフトワーク「アウトバーン」
  • 1975年:ドナ・サマー「アイ・フィール・ラブ」
  • 1977年:デヴィッド・ボウイ「ロウ」
  • 1977年:スーサイド 1st
  • 1978年:ウルトラヴォックス「システムオブロマンス」
  • 1978年:イエローマジックオーケストラ 1st (11月)
  • 1979年:スパークス「No.1イン・ヘブン」
  • 1980年:プラスチックス「WELCOME PLASTICS」
  • 1980年:オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク 1st
  • 1981年:デペッシュモード「Speak & Spell」

という感じで、極めてテクノの黎明期にリリースされたアルバム。そしていかに1977年からの5年間でロックが大きく変化したのかがわかりますね。


そして、このアルバム。流石にジョルジオ・モロダーだけあって、独特のシーケンスサウンドが全体のうねりを作っている。この当時は今のようにシンセサイザーをコンピュータで制御できないので、おそらく32ステップ程度のシーケンサーで、16分音符のシーケンスを作って、それをセンド&リターンを使って別のシンセで鳴らしていたんだと思います。イエローマジックオーケストラもMC4というシーケンサー(コンピュータ)を使っていますが、当時のアナログシンセサイザー環境を考えると、極めて幼稚なことしかできない時代なので。

ですので、そのコンピュータ的に規則正しいシーケンスに、生のドラムを重ねるというアプローチは、イエローマジックオーケストラとスパークスは同時期的にやっていたように思います。

そして、僕はまだこの当時はバンド活動をしていませんでしたが、こうした創意工夫的なアプローチをレコードで聴いて、僕たちも1980年にテクノっぽいバンドで大学内にデビューしました(エンゼルアワーを結成した 参照)。

今でも現役のスパークスは素晴らしい

いやー、改めてこのアルバムを聴くと、僕がどれだけ影響を受けたのかよくわかります。ボコーダーやストリングスの使い方も素晴らしい。これはそもそものスパークスの音楽感(というかロン・メイルのオーケストラレーションのセンス)があってこそでしょう。

そして、今回ブログに書いていて調べ物をしていたら、この当時のオフィシャルビデオがありました。これが素晴らしい。

ドイツ表現主義の映画「カリガリ博士」や、同じくドイツのフリッツ・ラング監督の「メトロポリス」を思わせる世界観。このあとに続いたミッジユーロに変わったウルトラボックスもこういうアプローチしてましたね。

そういえばジョルジオ・モロダーって、クィーンと組んでメトロポリスに音楽を付けるというアプローチをしていました。

そして、スパークスは今も存命で、かつ現役なのが素晴らしい。Wikiには、近年の彼らの姿勢として「兄弟は現在の多くのバンドには音楽的野心と実験精神が欠けていると見ていて、現在のポピュラー音楽の傾向にはついていけないという姿勢を取っている」と書かれています。なんというパンクなお爺ちゃんたちなんでしょうか。尊敬します。

こちらは、2018年のライブ↓。元気なロン・メイルのダンスに勇気をもらいます。ずっと元気で現役で頑張っていただきたいロックアーティストです。


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