借金トッシュと言われた時代
前回のつづき。森川眞行です。前回、画像編集ワークステーションを調べていくうちに、それらは全て数千万〜億という単位であったので、デザイン事務所に導入することを諦め、そこでアドバイスされた「今はまだ、画像補正の世界はスタートしたばかりだ。アメリカでアップルという会社が作っているパーソナルコンピュータなら、安価に購入できるし、もうじき色補正ができるPhotoshopというソフトが、アメリカのアドーベという会社から出るはずだ」…という言葉を信じて、デザイン事務所にパソコン(Macintosh)を導入しました。1989年のことでした。
当時Macintoshを購入するには、直営のApple Storeがない時代で、かつ家電製品として電気屋で購入できる時代ではなく、アップルコンピュータ(当時はこれが会社名でした)と契約した、オーストライズディーラーやリセイラーから購入する時代だったのです。うちの会社は土井グラフィックセンターが運営していたアップルセンター心斎橋で購入。最初のマシンは「Macintosh II fx」というマシンで、本体だけで98万円していました。
アップルセンターに「とにかく一番早くて、一番快適に動くコンピュータをください」とオーダーし、メモリを大容量8メガ(笑)に増設。さらにハードディスクも大容量160MBにして、マシンだけで軽く100万越え。さらに当時のコンピュータは、表示をフルカラー(1677万色)にするには、別売りのグラフィックカードを購入しなくてはならず、当時最速だった「SUPERMAC THUNDER II」を組み込みます。これが100万円くらい。そしてモニタは21インチのSUPERMAC社のもので、これも100万円(もちろんブラウン管)。合計で、お一人様350万くらい。
「アメリカでアップルという会社が作っているパーソナルコンピュータなら、安価に購入できる」という話は、一体何だったんだのでしょうか(笑)。しかしながら、僕たちは、それよりも高額な画像編集用ワークステーションを当初考えていたので、それに比べると「そんなに高くない」と感じていたのでした。恐ろしい話ですね。しかし、当時のパソコンの中では、アップル製品は「パソコン界のポルシェ」と言われていて「早いけど高い」というのが常識。さらに一般に人々が購入するには、高額すぎるので「借金トッシュ」とも言われてました。
さらに周辺機器でも100万円越え
さらにDTPを行なうのであれば、なめらかな曲線を印刷するPostScript(ポストスクリプト)という技術を採用したレーザープリンタが必要になります。それがOKI801PSマイクロラインというプリンタで、これが98万円。さらに日本語は2書体しか搭載していないので、見出しゴシック系のロダンというフォントを4種類(確か1書体20万円くらい)
さらにですよ、これはハードウエアだけの料金なので、ここにソフトウエアが必要となり、AdobeのIllustrator(バージョン1)Photoshop(これもバージョン1)、DTPソフトのAldus PageMakerとQuarkXPress。これらは1つ15万円から20万円くらい(Quarkは30万円近かったかな)。これだけで、また100万円超えます。
そして、僕のマシンはDTP用なので21インチの最強使用でしたが、一緒にチームを組んだコピーライターも「Macintosh II ci」を購入して、トータルで700万円くらいかかりました(もちろんリースでしたが)。
そして、購入して何ができたか。すぐにでもデジタルなデザインを実現できたか…というと、それが…なんともトホホな状態。
まずIllustratorやPhotoshopやQuarkXPressを覚えるのに、2ヶ月くらいかかったかな。そしてまだ当時は色々なグラフィックを作るノウハウもないし、書籍もない。さらに日本語は2書体しかない(後から追加しましたが…)状態で、会社に対してMacintoshを購入してデジタルデザインに取り掛かるという状況ではなく、導入から半年くらいは社内でも肩身が狭かったです(苦笑)
ですが、僕はそこで諦めなかった。なぜならデザイナーとして仕事のツールをすべてデジタル。つまりコンピュータに置き換えるという無限の可能性を信じていたからです。もちろん現実は「とほほ」なのですが、この頃は可能性だけを信じて仕事をしていたように思います。