ボクシング映画というより、家族を描いた映画
事実に基づき、プロボクサーのミッキー・ウォードを描いた2010年の映画。
ボクシングの映画というより、主人公の家族を描いた映画。ミッキー(マーク・ウォールバーグ)は、幼い頃から兄のディッキー(クリスチャン・ベール)にボクシングを習う。兄はプロボクサーになり、その後引退して弟のトレーナーになる。麻薬中毒になった兄と、ミッキーに超過保護に関わりを持つマネージャ代わりの母親。複雑な家庭の中で、ミッキーにガールフレンドができ、さらに兄が逮捕され、家族は一旦バラバラになる。だが、兄の出所後、また絆が戻り、最後は試合に勝つ…という内容。
オープニングからずっと、テンポよく物語が進んで、観ていて飽きない。しかし、なによりすごいのは、キャスティングと俳優だと思う。過去の栄光を引きずり、その過去から逃れるようにジャンキーになった兄のダメっぷり。息子に過剰な期待をし、ボクシングジムでも我が物顔に振る舞う母親。特に、このふたりのうっとおしさが、ガンガン伝わってくるからこそ主人公の真面目さや、誠実さが際立ってくると思った。
テッドのダメあんちゃんとは全然違う
ちなみに主人公のマーク・ウォールバーグは、先日観た「テッド」でのダメダメ兄ちゃんなので、今回のストイックな役とのギャップもすごい。
兄を演じたクリスチャン・ベールは、最初のシーンで誰だか解らなかったくらいだ。激ヤセして、髪の毛は薄く、大きな目を見開いて大袈裟に喋る演技は元ジャンキーらしい雰囲気が漂っており、僕はイギー・ポップをイメージしてしまった。クリスチャン・ベールは、この映画のために歯並びを変え、髪の毛も抜いて(後頭部には円形ハゲになっている)役作りをしたらしい。どこまで役者馬鹿なんだろう…と尊敬に値する。こんなにかっこ悪いキャラを、元バットマンというヒーローが演じるあたり「役者」という仕事へのプロ意識を感じる。
過保護な母も、どこでもタバコを吸い、大きな声でズケズケと喋るヤリ手ババアである。なんと、9人も子供を産んでおり、その割には妙にエロい枯熟女なのである。いつも強烈な香水をつけて、老いても女性を忘れない女…いかにもイケイケのアメリカ人らしくてよい。その母を演じたメリッサ・レオと、クリスチャン・ベールは、この作品でアカデミー賞の助演女優賞と助演男優賞のダブル受賞をした。さすがである。
あと、この映画でよかったのは音楽のインサートだ。ホワイトスネイク、ローリング・ストーンズ、エアロスミス、レッド・ツェッペリンなどが効果的に使われていて、ワクワクする。
特に、ディッキーが資金を稼ぐために警官詐欺を働き、警官に逮捕されるシーンまでの間レッド・ツェッペリンの「グッド・タイムス・バッド・タイムス」が流れる。かなり長い間流れていて、1コーラス以上使われていた。ゼップのデビュー曲をバックに、ディッキーが全力疾走するシーンは、今も目に焼き付いている。さらに、ディッキーが刑務所で、再起をかけてランニングトレーニングを開始するシーンではエアロスミスの「バック・イン・ザ・サドル」が流れる。どっちのシーンも、お気に入りの音楽で大興奮してしまった。
ラストのエンドロールで、ミッキーとディッキーが登場し、「ありがとう!ハリウッド」というのもよかったよ。
- 監督:デヴィッド・O・ラッセル
- 出演者:マーク・ウォールバーグ/クリスチャン・ベール/エイミー・アダムス/メリッサ・レオ
- 日本公開:2011年3月26日
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